『マルティニークからの祈り』

事実は小説よりも奇なり。『マルティニークからの祈り』は、まさに実話が持つ重みに引きつけられる作品だ。


2004年10月、フランス・オルリー空港で1人の韓国人主婦が麻薬密輸容疑で逮捕された。麻薬不法所持で逮捕されたジョンヨンは、知人から託された荷物を「金の原石」と信じていたのだが、弁明は一切許されず、異国の島で刑務所生活を送ることに。駐フランス韓国大使館の手違いなどが重なり拘束期間が延期されてしまうが、言葉が理解できないジョンヨンには、理由を知る術もない。状況に翻弄され、耐えるだけのジョンヨンの姿に、映画を見る側もやり場のない怒りを感じ、深い絶望に陥っていく。


しかし、物語は中盤から、打開に向けて力強く動き出す。驚いたのは、韓国のメディアの行動力だ。事件を知ったある記者が、ジョンヨンの夫を連れて島を訪れ、韓国大使館に乗り込んで大使を問い詰める。報道で事件の詳細が報じられると、ネットに書き込みが相次ぎ、硬直した事態を大きく変化させる原動力となる。さらに、事件の経緯以上に感動的なのは、ジョンヨンと夫の固い絆だ。互いを恨んでもおかしくない状況の中、2人は、信じ続け、遠くから支え合う。愚直ともいえるほど、ひたすらに。


「映画よりも映画のような事件が起きるのが、私たちが生きるこの現実世界」と、パン・ウンジン監督は語っているように、壮絶なストーリーが実話であることに圧倒される。そして、映画のラストに記される、実在するジョンヨンと家族についての「続報」に、胸が熱くなった。



『マルティニークからの祈り』
2014年8 月 29 日(金)
TOHO シネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
監督: パン・ウンジン(オーロラ姫、容疑者X天才数学者のアリバイ)
脚本:ユン・ジンホ
出演:チョン・ドヨン(シークレット・サンシャイン)、
コ・ス(高地戦、グリーンローズ)、
カン・ジウ(怪しい家政婦)
http://martinique-movie.com/

あらすじ
2004年10月30日、フランスのオルリー空港でひとりの女性が突然逮捕された。彼女に課せられた罪は麻薬密売の容疑。家族を貧困な生活から救うため「金の原石」と騙され運んだものは、なんと麻薬だったのだ。異国での突然の逮捕劇。言葉も分からず弁解の余地も与えられないまま、祖国から12,400㎞離れたマルティニークの刑務所に送り込まれる。韓国大使館のずさんな対応で裁判さえ開かれない中、韓国で夫は一人彼女を救うため奮闘するのだが-。



執筆者:桑畑優香(ライター・翻訳家)




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