『ストリート・オーケストラ』

開幕が間近に迫ったリオデジャネイロオリンピック。4年に一度のスポーツの祭典を待ち望むと同時に、懸念されているのが現地の治安の悪さだ。経済発展が失速し、貧富の差が拡大。日本のメディアでもそんな現地の様子を報道し、"ファヴェーラ"と呼ばれるスラム街の混沌とした様子が映し出されることが増えた。8月13日公開の映画『ストリート・オーケストラ』は、まさにそんなファヴェーラで生まれた物語。リオからバスで6時間ほどの場所に位置する南米最大の都市サンパウロを舞台に、スラム街の子どもたちが結成した実在の楽団・エリオポリス交響楽団の誕生にいたる逸話を映画化している。


ヴァイオリニストのラエルチは、サンパウロ交響楽団のオーディションに失敗。生活のため、NGOが支援するスラム街の学校でヴァイオリン教師の職に就くが、苛烈な環境で暮らす子どもたちにとって、一銭にもならない音楽の授業なんて価値のないもの。真剣に取り組む気配のない彼らに、ラエルチはほとほと手を焼く。ある晩、ラエルチは絡んできたギャングに「ヴァイオリンを弾いてみろ」と銃を突きつけられ、臆することなく美しい演奏を聴かせて相手を黙らせる。そのエピソードを聞いた子どもたちは、音楽の持つ力に対する見方を少しずつ変化させていき、楽器の練習に真剣に取り組むようになるのだが・・・・・・。

 

貧困の連鎖を断ち切り、犯罪に手を染める環境から子どもたちを救うには教育が重要だ。そのことを本作は音楽を通して改めて訴える。しかし実現は容易ではなく、登場する子どもたちも、自分の置かれた環境を怒り、憎みながらも、どこかで諦めてしまっている。そんな彼らにとって、次第に心の拠り所となっていくのが音楽であり、混沌としたスラム街に澄んだ楽器の音色が降り注ぐ演出は、厳しい現実を暫し忘れる不思議な癒しとなって感動を呼ぶ。

 

何と言ってもこの作品、音の使い方がとても上手い。演奏シーンの躍動感、クラシック音楽と若者が好むヒップホップをうまく取り混ぜた選曲、喧噪の中に差し挟まれる無音の瞬間など、耳からも物語を感じ取れる仕掛けが随所に施されている。  エンドロールで流れるのは、ラッパー、サボタージの「Respeito é lei」。このヒップホップ音楽にエリオポリス交響楽団がクラシックのアレンジを加えたバージョンが使われていて、最後までカッコいい。本編が終わっても、最後までぜひ席を立たないでほしい。

『ストリート・オーケストラ』
原題:Tudo Que Aprendemos Juntos
監督・脚本:セルジオ・マシャード
出演:ラザロ・ハーモス、カイケ・ジェズース、サンドラ・コルベローニ 
特別出演:サンパウロ交響楽団、エリオポリス交響楽団
配給:GAGA
公式サイト www.gaga.ne.jp/street
8月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

©gullane

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)


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