『リリーのすべて』

世界で初めて性別適合手術を受けた人物リリー・エルベの生涯と、"夫"であった彼女を支えた妻ゲルタの姿を描く映画『リリーのすべて』が3月18日から公開される。


後にリリーとなる風景画家アイナー・ヴェイナーは、デンマークに男性として生まれる。肖像画家のゲルタと結婚し、仲むつまじく暮らしていたが、ある日ゲルタに絵のモデルを頼まれ、女性物のドレスやストッキングを身につけた時から、アイナーは自分の中に押し殺してきた「女性」の存在を意識し始める。医療技術の発達した現在では決して珍しくない性別適合手術だが、映画の舞台となる80年以上前の時代ではまさに命懸けのトライ。トランスジェンダーの人々にとって生きることが現在よりはるかに難しかった時代に、身も心も女性として、自分らしく生きたいと願ったリリーの闘いが胸に迫る作品だ。

『博士と彼女のセオリー』でスティーヴン・ホーキング博士を演じて昨年オスカーを受賞した英国俳優エディ・レッドメインが、今度は男性から女性にトランジション(性別移行)するリリーを迫真の演技で表現したことも話題になっている。先月発表された今年のオスカーでは、エディの2年連続受賞はならなかったものの、妻ゲルタを演じたアリシア・ヴィキャンデルが助演女優賞を獲得した。ちなみに、アリシアはスウェーデン出身の若手女優で、今年10月の日本公開が決まっているマット・デイモン×ポール・グリーングラスのコンビ復活作『ジェイソン・ボーン』(原題)のヒロインにも決まっている注目株。日本人好みの愛らしい顔立ちで、今後人気が出そうなので今からチェックされておくことをお薦め!

撮影の1年ほど前からジャスチャーのコーチに師事し、女性らしい仕草を身につけたという本作のエディの演技は鳥肌もの。トム・フーパー監督が「巧すぎても困るので、習ったことは一旦忘れてくれと頼んだ」と言うほどエレガントで、男性でいる姿よりむしろ、女性でいる佇まいの方がしっくり馴染んでキャラクターにより真実味を持たせている。女性として美を追求し、やがて男性に恋をし、愛する男性の子供が欲しいと自然に願うようになるリリー。女性として生を受けたはずなのに、そんな"らしさ"なんてどこかに忘れ去ってきてしまった筆者は、この映画を観てピュアな女性性というものの存在を改めて教えられた気がした。

しかし何より心をつかまれたのは、"夫"アイナーに無条件の愛を捧げ、彼がリリーになっても、ただ自分らしく幸せに生きてくれることを願った妻ゲルタの姿だ。身近な家族やパートナーに、「今の性は自分の性ではない」と打ち明けられたら、あなたならどうしますか? LGBTをカミングアウトする人が増えつつ現在の世の中で、ゲルタが直面した問題は、誰の身に起こっても不思議ではないはずだ。

『リリーのすべて』
原題:The Danish Girl
監督:トム・フーパー
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、
ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ
配給:東宝東和
レイティング:R15+
公式サイト:lili-movie.jp
3月18日(金)より全国公開

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)



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