『博士と彼女のセオリー』

先月22日(現地時間)に発表された米アカデミー賞で、主演男優賞を33歳の若さで獲得した英国人俳優エディ・レッドメイン。その受賞作『博士と彼女のセオリー』は、とにかく天才物理学者スティーヴン・ホーキング博士に扮したエディの、オスカー受賞も大納得の熱演に圧倒される。

2012年の大ヒット映画『レ・ミゼラブル』のマリウス役で日本でも広く知られるようになったエディ。大きめの口とぽってり唇、そばかすの多い肌は分かりやすい正統派イケメンから少し外れるが、個性的な顔立ちとバーバリーのモデルも務めたスリムな長身で強い存在感を放つ。さらに、父親は銀行の頭取で、兄の1人は銀行の重役、もう1人は企業家という、まさに華麗なる一族の生まれ。本人も、名門イートン校ではウィリアム王子の“ご学友”で、その後ケンブリッジ大学に進学したという凄すぎる経歴の持ち主だ。一度来日した際に取材したことがあるが、そんな育ちの良さがプラスの方向に表れた、素直で可愛らしい青年という印象だった。

しかし、自身の輝かしいバックグラウンドを覆い隠すかのように、エディの仕事の選び方はかなり挑発的。今でこそ「レミゼ」で演じた好青年のイメージが強いが、『美しすぎる母』(07)では実の母親を殺害する少年を(今年のオスカーで共に主演女優賞を受賞したジュリアン・ムーアと母子の禁断の関係を演じている)、『HICK ルリ13歳の旅』ではサイコな異常性愛者を演じている。

そして今回挑んだのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患うホーキング博士。世界中の人々が実物の姿を知っている難役だが、快活でチャーミングな青年期から、病気の発症、そして徐々に身体の自由が失われていく様子を的確に演じ分けている。当然、病状のステージごとに求められる演技は異なるが、エディは病気の進行チャートを作成し、順撮りには進まない撮影において、各ステージに合わせた発声と身体表現を提供したというから驚きだ。ちなみに、今月20日公開の『ジュピター』(『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟監督最新作)では怪しい悪役で登場するので、彼の演技の振り幅をあわせてチェックしてみてほしい。

ポスタービジュアル等も美しく、一見、愛に溢れた夫婦の温かな物語に思える『博士と彼女のセオリー』。それには違いないのだが、ただの感動作で終わらないのがこの作品の魅力だ。どれだけ愛し合った仲でも、片方が身体障害者の夫婦の生活は甘いものではない。男と女、心が通い合うだけでは満たされないこともある。そのあたりの生々しさ、人間臭さも、映画ではきちんと描かれている。筆者が個人的に驚いたのは、全身の筋肉が萎縮する病でも、子孫を残す機能は健在だということ。博士の研究にも通じる宇宙の神秘、人間の神秘を感じてしまった。

『博士と彼女のセオリー』
原題: THE THEORY OF EVERYTHING
監督・脚本:ジェームズ・マーシュ
出演:エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ、
チャーリー・コックス、エミリー・ワトソン、サイモン・マクバーニー
配給:東宝東和 2014年/イギリス/124分 3月13日(金)より
TOHOシネマズ シャンテほか全国にて公開
公式HP http://hakase.link/

© UNIVERSAL PICTURES

 

執筆者:新田 理恵(フリーライター&エディター)


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