『薄氷の殺人』

2015年の映画初めにふさわしい注目作が中国からやって来る。昨年のベルリン国際映画祭でグランプリにあたる金熊賞と、主演男優賞(銀熊賞)をW受賞した『薄氷の殺人』だ。  今年の米アカデミー賞ノミネート確実と言われる『6才のボクが、大人になるまで。』や『グランド・ブダペスト・ホテル』といった強敵を制しての受賞ということで、そのクオリティの高さはお墨付き。中国北方の地方都市で起こったバラバラ殺人事件を発端に、当事者たちの複雑な情感と人間の哀しい性(さが)が浮き彫りになっていく。


1999年、中国の東北部。6都市にまたがる15の石炭工場で、1人の男の切り刻まれた体の断片が次々と発見された。5年後の2004年、同じ手口で新たな死体遺棄事件が発生。トラウマを抱えた元刑事が独自の捜査に乗り出すと、いずれの被害者とも親密な関係にあった1人の未亡人の存在が浮び上がり・・・。


魅惑の未亡人を演じるのは、台湾映画『藍色夏恋』(02)などで日本でもファンの多いグイ・ルンメイ。映画の舞台は中国・東北部のため、「なぜ言葉のアクセントが異なる台湾の女優を?」と鑑賞前は若干疑問に思うのだが、豪快なイメージが強い"東北女人"とはかけ離れた彼女の楚々とした佇まいが異質の存在感を放ち、映画の大きな魅力となっている。


アウトサイダーな元刑事に、ファム・ファタール…人物設定やストーリー展開は比較的オーソドックスなサスペンスだが、クライムシーンの異様さと夢と現(うつつ)が交差したような幻想的なライティングが醸し出す映像の力が、観る者を引き込んで離さない。  この監督、ちょっと只者ではない。かなりの数の映画や文学に触れた人にしか撮れないスタイルを持っている。  
監督のディアオ・イーナンは、中国映画好きの間ではお馴染みの作品『スパイシー・ラブスープ』(98)や『こころの湯』(99)などの脚本を手がけてきた人物で、監督としては今作が3本目。監督作が公開されたことがないため、日本でその名前はほとんど知られていない。今後の活躍に要注目だ。


中国の映画市場ではこれまで、国際映画祭で受賞したアート系映画はことごとくヒットしなかった。しかし『薄氷の殺人』は、そんな残念な"常識"を打ち破り、1億元(約19億円)を超える興行収入を記録。監督独自の作家性を守りながらも、万人受けのする推理小説やフィルム・ノワールのテイストを盛り込み、観客の心をつかんだ。中国で"あたるアート系映画"という新たな流れの里程標となるかどうか。そんな意味でも重要な作品である。



『薄氷の殺人』
原題:白日焰火 
英題:BLACK COAL, THIN ICE
監督・脚本:刁亦男(ディアオ・イーナン)
出演:廖凡(リャオ・ファン)、桂綸鎂(グイ・ルンメイ)、
王学兵(ワン・シュエビン)、王景春(ワン・ジンチュン)
配給:ブロードメディア・スタジオ
2014年/中国・香港/109分
1月10日(土)より、新宿武蔵野館、
ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
公式HP http://www.thin-ice-murder.com/

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執筆者:新田 理恵(フリーライター&エディター)


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