お仕事見学 翻訳品質管理者(QC)

映像翻訳の制作会社や翻訳会社には、社内にQC(クオリティコントロール)という仕事をするスタッフを置いています。 誤字脱字をチェックしたり、スムーズに読みやすい字幕になっているか確認したり、翻訳者と共同で商品を作っていく役割を担っています。


では具体的にQCとはどういった仕事をするのか、映像翻訳会社ワイズ・インフィニティのQCスタッフ・岡田(以下、岡)と花田(以下、花)に話を聞いてみましょう。




司会:ワイズ・インフィニティでは現在QCチームに所属する人員が社員の半数を占めているほど、重要な役割を果たしているようですが、そもそもQCというのは何でしょうか。

岡:QCはQuality Control=>品質管理の略で、会社によってはQA(Quality Assurance=>品質保証)とも呼ばれますが、品質を一定の水準に保つこと、または保つためのチェックを意味します。食品業界なんかでよく耳にしますが、翻訳業界でいえば、誤訳がないかチェックしたり日本語の流れが不自然であれば修正したりといった演出作業にあたるものです。


花:翻訳会社の商品は、食べ物のように腐ったりはしませんが、品質の悪いものはお客様から当然クレームが来る。翻訳物といえども商品ですからお客様が求めるものを提供するのが大前提です。


岡:そうそう。その点で誤解している人が多いんですが、翻訳はアートではなく商品なんです。


花:だから当然納期がある。いつまでも制作に没頭してはいられません。QC側でもいかに効率よく漏れなく作業を行えるかがカギになってきます。


岡:またQCで行うのは演出でありチェッカーさんが行うチェックとは少し違う、という点も特徴です。チェックというのは原文の解釈間違いや不自然な日本語を指摘するというのが主だと思いますが、演出はそれに加えて作品全体の統一であったり、クライアントの傾向を踏まえながら訳語を選択したり、といったいわゆる意図をもった判断を下すことが必要になってきます。




司会:では、そのQCの業務について、詳しく教えてください。

岡:まず翻訳者さんから送られてくる納品物がすべてそろっているかをチェックします。基本的なものはSDBファイル、ハコ台本、申し送りの3点。すぐに演出を始める場合は問題ないのですが、他の業務の関係でスタートまで時間が空く場合、この確認は重要になってきます。

花:よくあるんですよね。申し送りがないとか、全然違うデータが送られてきているとか。


岡:そういうトラブルを回避するためにも確認は必須です。それで問題ないようならいざ演出スタートということになります。 見るべきところは主に誤訳、日本語の流れ、人称・表記など統一がとれているか、そしてスポッティングですね。また事実関係のウラ取りも重要です。


花:誤訳は言わずもがな、チェックしていて一番目につくのは日本語の問題じゃないでしょうか。主語を「~は」にするか「~が」にするかで意味が違ってくることもありますし、 誤用も多い。たとえば「後輩A君はまだまだ未熟だからあの大仕事には役不足だ」なんていう文章も目にすることがある。「正しくは力不足」ですよね。やはりチェックする側もかなりの日本語運用力が求められます。


岡:1人称なども「僕」がいつの間にか「俺」になってたりする。でも気づかずにスルーしてしまう場合もあるから、やはりメモしておくことが大事ですね。


花:人の記憶力には限界がありますからね。せっかくデジタル化が進んでるんだから、忘れそうなものはすべてPC上にメモしとくべきですよ。逆に記憶に頼るのは危険です。間違えて覚えたりすることもないとは限らないですしね。


岡:デジタル化といえば検索機能や文字校正を活用しない手はないですね。たとえば参照資料が更新されて「プロダクション・デザイン」をナカグロなしの「プロダクションデザイン」に変更する必要が出た場合、字幕1枚1枚を目で見ていかなくても検索すれば漏れなく探してくれる。また、Wordの文字校正は不自然な日本語表現のほかに、表記ゆれ(たとえば「ビクトリア」「ヴィクトリア」)を指摘してくれるので、うっかりミスを納品前に防げる。 "こんな単純なこと、自分はミスしない"と思っても必ず凡ミスというのはあるんです。俳優の表記を毎回間違える人もいますし、これはもう無意識としか…。だからこそ、自分の目に頼らず機械のほうが効率のよい場合は使ってみることです。




花:ところでスポッティングってチェックも時間かかりますよね。


岡:タイムコード設定、イン点、アウト点、カット変わりの処理などが主なチェックポイントですが、これにも順番があって、まずはタイムコードです。この設定が間違っていると字幕がずれて表示されるわけですから、いくらイン点を完璧に取っていたとしても意味がありません。最悪の場合、スポッティングの取り直しにもなってしまいますので、注意が必要です。




司会:こう見ると、かなりの業務をこなさなければならないQC業務ですが、向いているのはどんな人でしょうか。

岡:粘り強い人。まじめな人。あとはやはり映像作品が好きな人ですね。実は体力勝負の仕事でもあるので健康管理がきちんとできるというのも重要です。


花:向いているかどうかはさておいて、フリーの翻訳者になりたい人は制作や翻訳の会社に入って全体の仕組みというか作業工程を知識ではなく体で覚えたほうがいいと思います。翻訳はとかく1人でやる作業が非常に多く、孤独に陥りがちですが、今自分がやっていることが全体のどの位置づけにあるのか知っておくことで、モチベーションも上がると思います。「担当の人は今こういうことを言いたいに違いない」とかある程度の予想もできる。


岡:そうですね。相手の気持ちを推し量るというのは、まさに翻訳にも当てはまることで、登場人物が何を言わんとしているのかを的確に理解する力にもつながると思います。そういう点では人と関わる仕事は何でも翻訳に役立つんじゃないかな。 それに翻訳の先に想像以上にたくさんの人の手がかかっていることを知れば、申し送りの書き方ひとつとっても相手を想定してひとりよがりにならずに済むと思います。




司会:ところで最近は劇場映画だけでなく、DVDなどでも翻訳○○と名前が表記されるケースが増えていますが、QC○○とか、字幕演出○○、といったクレジットは見たことがありません。テレビ番組では、制作に関わったあらゆるスタッフが一瞬とはいえクレジットされますが、そのあたりについてどう思います?



花:やはり名前が出るということはそれなりに責任を負うということでもあるので、一層身が引き締まるんじゃないでしょうか。この作品は自分がやったんだ!という達成感にもつながるのでどんどん出してしまっていいのではと思います。出ないことに対しての不満は特にありませんが。


岡:海外ではQC担当者は、書籍でいうところの編集者にあたるようです。つまりエディターですね。位置的には翻訳者よりも上の立場なので、日本とは逆みたいです。日本では名前が出るのは翻訳者のほうですね。




司会:それでは最後にQCの魅力について教えてください。

花:ずばり自分で翻訳するよりもラクなところです。


岡:…。


花:冗談です。今のはカットしてください。 やはり翻訳をよりよいものに仕上げていく過程そのものが魅力といえば魅力です。 翻訳は共同作業です。みんなで頭をひねってすばらしい答えが出た時は清々しい気持ちになります。ただ、そういう瞬間はあまり多くありませんが。


岡:私の場合は、短期間で多くの作品に出合えることですね。これは翻訳者さんには経験できないことです。私自身、翻訳できるとすれば英語のみですがQCの立場ですと韓国語、中国語、スペイン語、フランス語とあらゆる原語の作品が作業対象になります。 世界各国の作品が見られるのは大きな魅力です。




司会:本日はどうもありがとうございました。


<まとめ>
QCの仕事とは、翻訳者さんが仕上げた翻訳を、商品として納品できるクオリティにすること。
向いている人は、粘り強く、まじめで、健康管理がきちんとできる人。
そして何より映像作品が好きな人。

QCの魅力は、翻訳が共同作業によって完成していく過程を実感できること、
そして多くの作品に関われること。
以上、参考になさってくださいね。

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