『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』

ハンガリーと聞いても、日本人にはあまりピンとこない国かもしれない。最近では、中東などから押し寄せる移民を拒絶する強硬姿勢で、むしろマイナスのイメージが先行している。だが、主要民族であるマジャール人はアジア系の血を引き、名前も姓名の順で表記、さらに温泉好きの国民が多いなど、知れば知るほど日本人には親近感の湧く国でもある。

実は近ごろ、ちょっとしたハンガリー映画の波がきている気がする。今年5月のカンヌ国際映画祭では、新人監督の長編映画デビュー作で、ホロコーストを題材にした『サウルの息子』がコンペティション部門のグランプリを獲得(来年1月下旬に公開予定)。そしてもう1本、同じくカンヌで「ある視点部門」のグランプリと、最も優れた演技を披露した犬に贈られる"パルム・ドッグ賞"をW受賞した作品がある。それが今回ご紹介する『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』(11月21日公開)だ。

「雑種犬の飼い主には重税を課す」という(もちろん架空の)法律が施行された、ハンガリーのある街が舞台。主人公の少女リリィは、理解のない父親に愛犬ハーゲンを捨てられてしまい、街中を捜索する。その頃ハーゲンは、当局の野犬狩りに追われたり、裏社会のトレーナーに買われて闘犬場に引き出されたり、人間たちに酷く虐げられていた。獰猛な野性に目覚めていくハーゲン。そしてついに、数百匹の野犬たちを率いて、人間たちへの復讐に出る。

パルム・ドッグ賞も納得の名演をみせるハーゲン役の兄弟犬、ルークとボディが本当にいい面構え。犬たちが街を疾走する様子も実写で撮影されたというから驚きだ。コーネル・ムンドッツォ監督曰く、終盤の犬たちによる報復の凄まじい描写は、「大衆が蜂起する瞬間」を表しているという。「ほかの種族や敵対する相手、マイノリティの立場に立つことを拒否すればどんなことになるか分かるように」との意図があるとか。景気後退で貧困に苦しむ国民が増えるているハンガリー。同国の対移民政策に対しても同じことが言えそうだが、抑圧された続けた弱者の不満はいつか爆発する。監督の社会を批判する目は鋭い。

「少女と犬の物語」と聞くと可愛らしい映画を想像してしまいそうだが、テイストは幻想的かつグロテスク。これまでにない映像体験ができる1本だ。

『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』
監督・脚本・出演:コーネル・ムンドッツォ
原題:Feher Isten
出演:
ジョーフィア・プショッタ、ルークとボディ、シャーンドル・ジョーテール
配給:シンカ
11月21日(土)より
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて公開
公式サイト http://whitegod.net/

2014 (C) Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney

 

執筆者=新田理恵(フリーライター&エディター)


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